その他の肛門疾患
当院では痔核以外でも、以下のような病気についても
対応したします。
肛門周囲膿瘍
肛門周囲膿瘍とは
細菌感染を起こし、肛門・直腸周囲、皮下に膿が貯まる病気です。
肛門陰窩から感染するケース(痔ろうに移行する可能性あり)や、皮膚を介して感染するケース(粉瘤や膿皮症)、臀部に生えた毛の迷入が原因になるケース(毛巣洞)などがあります。座れないほどの痛みや腫れを生じ、発熱することもあります。
治療について
膿が少なければ、抗生剤や痛み止めの内服で改善することもありますが、膿の量が多く炎症が強い場合、皮膚を切開して膿を出します(切開排膿)。
多くは外来で局所麻酔下に行いますが、膿の位置が深い場合や、膿が広範囲におよぶ場合、入院が必要になることもあります。
排膿はあくまで応急処置であり、原因によっては炎症がおさまった後に根本的な治療(手術など)が必要になることもあります。
肛門掻痒症/肛門周囲皮膚炎
肛門掻痒症とは
肛門にかゆみを感じる病気全般を指します。おしりのかゆみで悩んでいる方は意外に多く、人口の約5%に見られるという報告もあります。
痔核や裂肛等の肛門疾患によるもの、湿疹や皮膚炎、アレルギーや感染症、化学的・物理的な刺激など、原因は多岐に渡ります。
最もよく見られるのは湿疹によるものですが、排便後の拭き過ぎや、シャワートイレの使いすぎ(水圧が強い/長時間使う)といった肛門の過剰なケアに起因したものが少なくありません。また、真菌(カンジダ)感染が原因となることも多く、疑われる場合は検査を行います。
治療について
外用薬(ステロイドや抗ヒスタミン薬)やかゆみ止めの内服、薬用石鹸などを使用します。
また、お尻を拭き過ぎない、シャワートイレの適度な使用といった生活習慣の改善も大切です。かゆみがなくなっても治りきっていないことが多く、治癒していないのに治療を止めてしまうと数ヶ月で再燃してしまいます。自己判断で治療をやめずに、きちんと治し切ることが重要です。
肛門皮垂(スキンタグ)
肛門皮垂とは
肛門部皮膚のたるみや出っぱりです。その見た目から痔核と思われる患者様も少なくありません。語弊を恐れず言えば病気ではありません。
大きさによっては異物感を感じたり、時に腫れたりかゆくなったりすることがありますが、ほとんどは一過性で、かつ重篤ではありません。
治療について
積極的な治療は必要ありませんが、かゆみや痛みがある場合、外用薬を使用する事もあります。たるみや出っぱりがどうしても気になる場合、大きさによっては外科的切除を行います。
ほとんどは日帰りによる手術で対応可能ですが、大きい場合入院手術の適応になることもあります(形成的な意味合いが強い場合、当院では対応できないこともあります)。
肛門皮膚感染症
肛門皮膚感染症とは
肛門皮膚に生じた感染症全般を指します。
肛門周囲の皮膚は、様々な感染症の母地となります。
主な病原体は、細菌(梅毒)やウイルス(単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、ヒトパピローマウイルス)、真菌(カンジダ)などです。
治療について
各々の感染症に対応した治療を行います。
ウイルス感染ではいぼを形成することがあり(パピローマウイルスによる尖圭コンジローマ)、病変の外科的切除が必要になることもあります。
直腸脱
直腸脱とは
直腸が肛門より脱出してしまう病気です。
骨盤を支える筋肉(骨盤底筋)や支持組織、肛門括約筋の弱体化が主な原因とされており、多産婦や高齢女性に多い病気です。
また、頑固な便秘や、強く・長くいきむような排便習慣は症状を悪化させます。
粘膜の一部が脱出するだけの軽度なものから、直腸全層が10cm以上脱出するような高度なものまで程度は様々です。高度に脱出するほど戻すことが困難になり、脱出した直腸粘膜から粘液が分泌されたり、出血したりしてQOLの低下を招きます。
治療について
軽症であれば治療の対象にならない、もしくは便秘のコントロールや排便習慣の改善で目立たなくなることもありますが、治療する場合は手術が必要となります。肛門側から行う経会陰的手術と、おなか側から行う経腹的手術があり、脱出の状態や症状に応じて適切な術式を選択します。我々のグループでは、経肛門的な手術を行っておりますが、経腹的な手術が必要な場合、専門施設へ紹介させていただきます。
肛門管癌
肛門管癌とは
肛門管および肛門周囲皮膚に発生する悪性腫瘍のことです。
大腸癌や直腸癌と異なり、発生母地や組織像は多彩です。
上皮から発生する腺癌、扁平上皮癌、粘液癌、肛門線由来の痔ろう癌、皮膚由来のPaget病やBowen病、その他悪性黒色腫などが挙げられます。
治療について
病理検査の結果や進展の程度、転移の有無を評価した上で、手術や放射線治療、化学療法などを行います。
便失禁
便失禁とは
本邦では、「無意識または自分の意思に反して肛門から便がもれる症状」と定義されています。肛門括約筋の機能低下、肛門直腸の感覚障害、中枢神経系による便意の認知障害、便の性状など、様々な要因が関与していると言われています。程度や状態は様々ですが、しばしばQOLの低下を招き、深刻となるケースも稀ではありません。
治療について
食物繊維摂取や内服治療による便性のコントロール、骨盤底筋訓練(ケーゲル体操)などの保存的治療のみで改善するケースも多く見られる一方、バイオフィードバック療法や仙骨神経刺激療法、洗腸法といった専門的な治療を行っても、十分な改善が得られず、治療に難渋するケースも少なくありません。